家族と一年誌「家族」×石田真澄 『東川町の家族のはなし 桐原家』

 


2月21日からCOMINGSOONにて開催予定の
北海道 東川町 ×『家族』「よりそう移住、東川町」に併せて
『家族』が石田真澄と東川町を旅した記録を随時更新。全6回を予定しています。


家族と一年誌「家族」×石田真澄
『東川町の家族のはなし』

文章「家族」編集長 中村暁野 / 写真 石田真澄

旭川空港から車で10分ちょっと。東川町の中心地に入ると、目に飛び込んでくるお店liko to go。冬は一丁焼きのたい焼き、夏は自家製シロップのかき氷が人気のこのお店を営んでいるのは桐原紘太郎さん、まどかさんご夫婦。お二人は「liko to go」と、もう一店、古い平屋を自分たちで改装しオープンした「liko organic café」の二店舗を東川町で営んでいる。もともと東京に暮らしていた桐原さん一家は自分たちにとっての「ちょうどいい暮らし」ができる場所を探し日本全国、世界各国をめぐる旅をした。そしてたどり着いた東川町。ここで生きることを選んだ桐原さん一家に、東川町の魅力を聞いた。

桐原紘太郎さん、まどかさん、さくらちゃん、すみれちゃん、かすみちゃん

 

東川町にきて何年になるのでしょうか?

紘太郎さん「5年になります。東川に来る前は2年間旅をしていて、旅の前は福岡に暮らしていました。東京でアートディレクターとして働いていたのですが長女が生まれた頃、独立してフリーランスになりました。パソコンがあればどこでも仕事できるので福岡の糸島に引っ越して、妻はスムージーのお店を開いて。糸島もいいところだったのですが、2年住んで自分たちにとっての心地よい暮らしをもう一度考えてみたいとキャンピングカーで旅をすることにしたんです」

まどかさん「漠然とイメージしていたのは水と空気がきれいな場所に住みたい、ということ。長女と生後3ヶ月だった次女と4人で旅にでました。日本だけじゃなく、ニュージーランド、ハワイ、バリ、台湾…海外もあちこちめぐりました」

紘太郎さん「フィリピンの島にいた時、仕事で使っているMacBookが壊れて。フィリピンはAppleの正規店がなく、修理に出すと3ヶ月かかると言われ慌てて帰国。羽田についたその足でアップルストアに行ったら半日で直った。日本すごい(笑)…って思いつつ、せっかくだし北海道を時計回りに一周してみようとなって。その時近くを通って、はじめて東川町を知ったんです」

まどかさん「水がおいしいし、空気もいいし、移住体験施設も充実していました。それで8月から10月の終わりの、雪が降り始める頃まで3ヶ月くらい滞在して。とても快適だったのですが、その時はまだ海外に住むことも考えていた。でもその後本州を回っている時に車の事故に遭ってしまったんです。幸い大きな怪我などなかったのですが、これが海外で起きていたら…と思うと大変だったなと。いろんなリスク、子どものことを考えると住むのは日本がいいかのかなって」

紘太郎さん「だったら北海道のあのあたりがいいよね、と物件を探し始めました。最初旭川や当麻でも探したんだけど、いいなと思ったところが契約直前でだめになったり、縁がないのかな?という感じで。そんな時にたまたま東川町のliko organic caféの物件に出会ったんです」

まどかさん「小さい一軒家で、敷地にシンボルツリーのような木があった。一目で気に入りました。調べたらトントン拍子で買えることになり、しかもすごい安くて(笑)。最初は家として住もうと改装を始めたんですけど、10坪しかないし、お風呂もないし、住むのはむずかしいかな…と思っていたら、当時3歳だった次女が『ここでお店やりな』って言ったんです。それでお店をやってみることにしました」

東川町は移住や起業の相談なども手厚くのってくれると聞きます。

まどかさん「定住促進課の方がすごく親身になってくれて『家を改装したい』『お店を改装したい』といったらどんどん人を紹介してくれました。スムージーのお店をやろうと思ったんですけど、スムージーだけじゃ喜ばれないんじゃない?と、夫が小さい子からお年寄りまで好きなたい焼きをやりたいと言い出して」

紘太郎さん「もともとたい焼きが好きで、いろんなお店のを食べていたんです。好きなお店はみんな「天然もの」と呼ばれる一丁焼きのたい焼き(ひとつの金型で一匹ずつ焼くたい焼きのこと)だったので自分も一丁焼きでいこうと。素材にこだわったたい焼きとスムージーのお店として2016年3月にオープンしました。初日、予想外にものすごくお客さんが来てくれたんです。小さな町だし、そんなにお客さんは来ないだろうと思っていたから、一丁焼きの型ひとつで焼いていて、一匹ずつしか焼けないんですよ。お客さんを待たせちゃったんですけど、みんな怒りもせず待っていてくれて。その日に一丁焼きの型を作っている工場に電話して、在庫であった5本全部送ってもらいました。それで同時に6匹焼けるようになった(笑)」

その後、町の中心部に2店目の「liko to go」もオープンされたのですね

まどかさん「2018年のゴールデンウィークに宮崎豆腐店(liko to goの並びにある東川町のお豆腐屋さん)にお豆腐を買いに来たら、ふとこの物件に小さい紙が張ってあるのを見つけたんです。『貸店舗として貸します』って電話番号が書いてあって。電話してみたら借り手がまだ決まっていなくて、たい焼き専門に借りよう!って」

紘太郎さん「たい焼きはテイクアウトのお客さんが多いので、独立させたいっていう気持ちもあったんです。ここは町のメインロードだし、たい焼きを買って町歩きしてもらうのにもぴったりだなと。liko organic caféの方はスムージーをメインにゆっくりカフェを楽しんでもらう場所にして、こっちはテイクアウト専門で、気軽に立ち寄ってもらうようなイメージで空間をつくりました。…なんですけど、気付いたら夏は自家製シロップのかき氷とか昼はハンバーガーとか、今やたい焼き以外のメニューもたくさん出しているんですけど(笑)」

二つのお店以外にも、東川町のほかのお店も参加するいろいろなイベントを主催されたりと、行動力というか実現力がすごいです。

紘太郎さん「二人とも思い立ったら即!という性分なんです。イベントも町の施設を使えたり、役場の人も音楽のPAで参加してくれたり、お店同士も横のつながりがあって、やりたいことを相談しやすい町だと思います。先日主催したイベントは次世代につながることがテーマで『使い捨て容器は使わない』と提案したのですが、そういうこともぱっと実現できたり」

まどかさん「最近は東川町に移住したいという人に不動産を紹介したりもしているんです。ただ引っ越すんじゃなくてその後どんな暮らしがしたいのか、そんなことまで話しながら、その人たちにぴったりとくる物件を紹介できたらいいな、と」

三女のかすみちゃんは東川町生まれですね。

まどかさん「東川町で生まれた赤ちゃんに贈られる君の椅子をいただきました。小さな町だけど、どこにいっても子どもがいて、みんなが子どもたちの顔と名前を知ってくれている。みんなに見守ってもらっているような安心感があります。都心だと子ども3人は子沢山なのかもしれないけど、東川では3人はむしろふつう。スキー場がシーズン1000円で使い放題だったり、町をあげていろいろな体験をできるような機会をつくってくれているのも、とても贅沢なことだなって思います」

紘太郎さん「ちょうど東川小学校が改装されて完成した頃に初めて東川町にきて、小学校を見学したんです。こんな学校だったら通いたいなあ思いました。子どもたちの環境がすばらしいのも、東川町の魅力のひとつです」

今後は東川町でどんな暮らしをしていきたいですか?

まどかさん「いつもはげしく忙しくなりがちなので(笑)もうちょっとゆっくり働くペースは抑えてられたらいいかなと。自給自足みたいなところを目指しながら、この町で暮らしていきたいなと思っています」

 

『家族』が石田真澄と東川町を旅した記録、『東川町取材日記』は以下よりご覧いただけます。

第一回目はこちらから☞『東川町取材日記』第一回

第二回目はこちらから☞『東川町取材日記』第二回

第三回目はこちらから☞『東川町取材日記』第三回

第四回目はこちらから☞『東川町の家族のはなし』〈桐原家〉

第五回目はこちらから☞『東川町の家族のはなし』〈中川家〉

第六回目はこちらから☞『東川町キッチン』

 

 

 

中村暁野 / なかむら・あきの

編集者、エッセイスト。一年をかけてひとつの家族を取材する、家族と一年誌「家族」編集長。家族にまつわるエッセイやコラムの執筆も手がける。夫と9歳女子、2歳男子、たれ耳うさぎのバターと一緒に、2017年から、山梨と神奈川の県境にある藤野へ移住。古い一軒家を少しずつ自分たちで改装しながら暮らしている。


石田真澄 / Ishida Masumi

1998年生まれ。
2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything with flow」を同社より刊行。雑誌や広告などで活動。