家族と一年誌「家族」×石田真澄 『東川町の家族のはなし 中川家』

 


2月21日からCOMINGSOONにて開催予定の
北海道 東川町 ×『家族』「よりそう移住、東川町」に併せて
『家族』が石田真澄と東川町を旅した記録を随時更新。全6回を予定しています。


家族と一年誌「家族」×石田真澄
『東川町の家族のはなし』

文章「家族」編集長 中村暁野 / 写真 石田真澄

中川伸也さん、織衣さん、杜翔(トワ)くん、莉杜(リト)くん一家

ドアをあけると、目に飛び込んでくるのは壁に沿って取り付けられたボルダリングのホールド。隣には天井から取り付けられたハンモックが揺れている。蒔きストーブが焚かれた部屋、天然木の床は冬でもあたたかく、学校から帰宅するなり子どもたちは半袖になって遊び始める。なんとも心地良いこの家に、大雪山国立公園の山々を中心とした山岳ガイドを行う「Natures」を主宰する中川伸也さんと妻の織衣さん、息子の杜翔(トワ)くん莉杜(リト)くんは暮らしている。中川さん家族は、10年前、ここ東川町にやってきた。もともと借家として借りていた家を土地ごと買い、2年前に建て替えた。20歳の頃からスノーボーダーとして活躍してきた伸也さんが、もう一つの生きる道として選んだ山岳ガイド。旭岳のガイドをするため訪れた東川町が気に入り、移住してきたという中川さん一家に東川町の魅力を聞いた。

自分たちに必要なものがある町だと思った

伸也さん「東川町にくる前は、すすきので居酒屋を立ち上げからやったりもしていたんです。楽しいけど、忙しくて山や海にいく時間も体力もない。自分がずっとやってきたスノーボードに関わるようなこと、つながるようなことをして生きたいという思いから山岳ガイドを目指しました。今では東川町に住んでいるというと『いいところに住んでるね』なんて言われるけれど、10年前はなんにもない町だった。でもそれが良かったんです。『あったら便利』なものは少ないけれど、自分たちに必要なものがある町だと思った」

織衣さん「東川町にやってきてすぐに、夫は遠征で1ヶ月アラスカに行っちゃったんです。知り合いが1人もいないのにと不安だったのですが、町の人たちがとてもあたたかく接してくれて。気づいたら、1ヶ月の間に友達がたくさんできていました。夫は帰ってきたら、わたしにたくさんの友達がいたので驚いていました」

人と人の距離が近い町なのでしょうか?

伸也さん「気づいたら友達がたくさんいた、という感じで人と人がつながっていく。東川町出身で一度外に出てからまた帰ってきたような人と、新しくきた人が自然と混じり合って、この町の空気をつくっています。何百万人もの人が暮らす都心部でしようとしても難しいようなことも、人口8000人のこの町では形になりやすい。人をまきこみやすいということはあると思います」

織衣さん「札幌で友達とごはん食べようと思ってもなかなか予定が合わなかったりするけど、ここでは子どもも含めて『今夜ごはん食べない?』って気軽に誘ったり誘われたり。お互いの子どもを一緒に育てていると感じるくらい、第二の家族と思えるような友達ができました。大人になってからこんな友達ができるんだなって。近所の人も子どもを見守ってくれていて、こまった時に頼ることができる。子育てがしやすい環境です」

自分たちが求める豊かさが、東川町をつくっていく

ここ数年人気の町として注目されている東川町ですが、そういった人のつながりが魅力なのでしょうか?

伸也さん「仕事で東京に頻繁に行くのですが、旭川空港までは車で10分。フライトの1時間前の朝9時頃家を出て、昼前にはもう東京についている。ここにいたい時はいれるし、どこかに行きたいと思ったらすぐに行けるというのも魅力なのだと思います。暮らし方も働き方もいろんな選択肢が持てる時代だと思うので、都心と東川町の二拠点で生活したり。小さな町だけど、それぞれコンセプトをもってやっている、ここにしかない店が多いのも魅力だと思います。北海道の一部の街はスノーリゾートとして注目されて、外国資本によって高級ホテルがつぎつぎ建ち、開発が進んでいる。ここ大雪山に降るさらさらの雪も、世界中のスノーボーダーからとても人気があるんです。でもリゾート化することは町の豊かさなのか、という思いもわく。ここで、どんな暮らしをしたいのか。自分たちが求める豊かさが、東川町をつくっていくのだと思います」

昨年9月には中川さんご夫婦も東川町にソフトクリーム専門店である「NATURES SOFT SAVE」をオープンされたそうですね。

伸也さん「人が集まるような拠点をつくれたらとずっと思っていました。ソフトクリームって、あらゆる層のお客さんが来てくれるんですよ。それこそお年寄りから子どもまで。お店を通して山の魅力もより多くの人に広められたらと思っています」

織衣さん「いつかお店をやるとしたらソフトクリーム専門店をやるんだ、ってずっと思っていて。子育ての時間を大事にしながらも、自分のやりたいこと、できることを、とオープンしました。美瑛のジャージー牛とブラウンスイス牛の牛乳に砂糖だけを加えたソフトクリームを出しています。無添加にこだわっただけでなく、見た目も楽しくなるようなものにしたかったので、試行錯誤して。冬季はお休みで、春から秋にオープしています。東川町は雪深い冬もきれいですが、春から秋にかけてもとてもきれいなんですよ」


『家族』が石田真澄と東川町を旅した記録、『東川町取材日記』は以下よりご覧いただけます。

第一回目はこちらから☞『東川町取材日記』第一回

第二回目はこちらから☞『東川町取材日記』第二回

第三回目はこちらから☞『東川町取材日記』第三回

第四回目はこちらから☞『東川町の家族のはなし』〈桐原家〉

第五回目はこちらから☞『東川町の家族のはなし』〈中川家〉

第六回目はこちらから☞『東川町キッチン』

 

 

 

中村暁野 / なかむら・あきの

編集者、エッセイスト。一年をかけてひとつの家族を取材する、家族と一年誌「家族」編集長。家族にまつわるエッセイやコラムの執筆も手がける。夫と9歳女子、2歳男子、たれ耳うさぎのバターと一緒に、2017年から、山梨と神奈川の県境にある藤野へ移住。古い一軒家を少しずつ自分たちで改装しながら暮らしている。


石田真澄 / Ishida Masumi

1998年生まれ。
2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything with flow」を同社より刊行。雑誌や広告などで活動。